「免許返納」から始まる、新しい移動手段探しの物語①
私の父は85歳、ひとり暮らし。
ここは九州の片田舎…。移動はもっぱら自家用車です。
公共交通機関はあるもののバスなどは1時間に1本程度、一番近いスーパーもきつい坂があり、徒歩で行くには難しい、ちょっと不便な住宅地に住んでいます。必然的に自家用車という移動手段が必要でした。
今回は、そんな父が「免許を返納する」という決断から、新たな移動手段を見つけるまでを物語調で記事にしていきます。
「親族にご高齢の方がいて自家用車で移動している」「その運転に不安がある」「運転する(させる)のが心配」など、自家用車の運転に不安がある方、そのご家族の方に向けて、私の体験談として記事にしました。ひとつの参考ケースとして少しでも参考になれば幸いです。
第一章:免許返納の決断と新たな一歩
私の父は85歳、長年自家用車を運転して日常生活を支えてきました。乗っていた車はトヨタのポルテで、所有期間は約10年。主な用途は日々の買い物や月に一度の病院通い程度で、遠出をすることはほとんどありませんでした。地方特有の車がないと生活できない地域ということです。
しかし、1年前。父が84歳の誕生日、免許更新のタイミングが訪れました。その頃、ニュースでは連日、高齢者の事故が報道されていました。
「ギアを間違えてコンビニに突っ込んだとって」
「有料道路で逆走する事故もあったね…」
実家に立ち寄った際にそんな話題が増える中、誕生日の日に父はふとつぶやきました。
俺もいつか、そうなるかもしれん…
家族で話し合いを重ねました。高齢者事故のニュースは他人事ではなくなっていたし、家族としても、父の安全を守りたいという気持ちが強かったです。
免許証はもう返納する
まじめな父は決断も早かったです。
しかし、父はこうも続けました。
それでも移動手段がなくなるとは困るばい
原付免許だけ残すけん
スクーターなら乗れるやろう
原付免許はルール上、残すことができます。スクーターに乗ったことのない父でしたが、練習すれば乗れる——そう前向きに考える父の言葉に、私たち家族も少し安心しました。
「その時はスクーターの練習には付き合うけん」
「買い物や病院も、必要な時は一緒に行くし」
免許返納を機に、父をサポートする体制が整い、新たな一歩が始まろうとしていました。
第二章:免許返納後に訪れた“不便な日常”
免許を返納し、車も手放したことで、父の生活は一変しました。
車は一括査定サイトを利用して数社に査定をしてもらい、一番高い買取価格を提示してくれた業者に引き渡しました。業者の対応は私がおこないました。
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複数の業者から見積もりが出るので、店頭に持ち込んで査定してもらうよりも高額で査定してもらえることが多いです。店頭査定「0」でも一括査定なら希望が持てます!父のクルマも古かったですが、見積額は各業者でしっかりと提示されました。クルマを手放す予定のある方は是非一度一括査定を受けてみてください。
ありがとさん
父が私にそう言ったのを聞いたとき、長年乗ってきた愛車に対しての言葉も含まれているのではないかと感じ、私も少し胸が詰まりました。
車がなくなり、浮かび上がる不便さ
父の住む地域はアップダウンの多い土地柄で、短い距離の買い物ですら、徒歩では想像以上に過酷です。特に近所のスーパーは行きは下りで、帰りは坂を上らなければなりません。
行きはまだよかけど、帰りがきつかばい…
試しに数回徒歩で買い物に行った父でしたが、荷物を持って坂道を登る帰り道で息を切らせ、ついには徒歩での買い物を断念しました。
さらに、通院にも問題がありました。
まず、最寄りのバス停までが遠い。寒さ暑さが厳しい日はバス停に行くだけでも一苦労で、危険も伴います。
そして、日中のバスは1時間に1本程度です。車であれば10分程度で済んだ道のりも、バス停まで歩き、往復の待ち時間を考えれば軽く1~2時間の移動時間となります。
これじゃ、買い物も病院も無理ばい…
そんな不便な日常に直面し、父の行動範囲は一気に狭まくなりました。
やっぱり移動手段が必要やな…
車を手放して数週間、不便な生活に疲れた父は改めてこう言いました。
スクーターのあれば、こがん思いはせんで済むやろう
そうです。
免許返納のときに考えていた「スクーター」という選択です。最初は軽い気持ちだった「スクーター」という選択肢が、父にとって切実な移動手段としての意味を持ち始めていたのです。
適当にスクーターば買ってきてくれんか?
次のステップとしてスクーター選びが本格的に始まることになりました。
第三章:スクーター選びと挑戦の過程
免許返納後の不便な生活を経て、父が選んだ新たな移動手段は、免許返納時に検討していた50ccのスクーターでした。
原付免許は残したし、スクーターなら乗れるやろう
選んだのはヤマハ・ジョグの中古車。走行距離は1000kmほどで、シルバー色の車体は見た目もほぼ新車のようでした。価格も手頃で、父の「適当にスクーターを買ってきてくれんか?」という基準も満たしていると判断。「フロントには風防(ウインドスクリーン)、リアには荷物ボックスもつけたい」というリクエストも満たしました。このような商品です。
最初の練習|小さな壁と大きな挑戦
スクーターの納車の日、乗った感覚を確認しておきたかったので、私がバイク屋まで引取りに行き、父の自宅までは私が試運転することにしました。
最近のスクーターは急発進しにくい、安全設計になっとるね
そう感じ、少し安心したことを覚えています。「これならいけるだろう」と、家族もサポートの準備を整え、いよいよ自宅周辺で練習を開始したのです。
操作への戸惑いと直線の恐怖
父にとってスクーターの操作は予想以上に難しかったようです。
エンジンって、どがんやってかけるとね?
キーの回し方、エンジン始動のプッシュボタン、ウインカー操作、給油口の開け方。その一つ一つに戸惑う姿を見て、最初の小さな壁を感じました。
バイクは今まで乗ったことなかけんなぁ…
とつぶやく父。
停止していても少し傾く車体に、不安そうに両足を地面につけていました。
速度とカーブの壁
直線を進むだけなら少しは慣れるだろうと思っていましたが、父の出せるスピードはせいぜい10km/hほど。30km/hを出すことができないどころか、「これ以上は怖い」と言いながらアクセルを控えめに回していました。
さらに、カーブを曲がるということが大きな壁になったのです。
カーブの時に傾く感じの、なんとも怖か…
後ろから見守る私も、転倒しないかと心配になるほど、車体のバランスに不安定さが見えました。そして曲がる方向の足を地面につけようとするので足が巻き込まれないかも心配になりました。
第四章:スクーターを諦めた気持ち|次なる選択へ
私は仕事が休みの日は実家へ出向き、家族で見守りながら練習を続けたものの、父の気持ちには少しずつ変化が見え始めました。
こりゃ無理ばい…
一般道での運転に対する恐怖感は消えず、二輪特有の不安定さは克服できそうにないとのことでした。父は、操作やバランスに苦戦する自分自身を冷静に受け止めていたのです。
前向きな気持ちと次の一言
スクーターを諦める瞬間、父は言いました。
二輪はちょっと難しか…
これは乗れそうになかばい
家族全員が父の安全を第一に考え、原付スクーターを諦めるという決断を受け入れました。
しかし、父の表情に大きな落ち込みは見えず、
次は倒れんとがよかなぁ
前向きに次の移動手段を探す姿に、私も心が少し軽くなりました。
そして次の挑戦がはじまるのです。
【筆者コメント】
「高齢者の免許返納後におすすめの実話|いくつかの失敗と挫折を乗り越えて得た移動手段のはなし|第一話」をお読みいただきありがとうございました。
ご親族で高齢の方が自動車を運転されていると心配になること、ありますよね。私も同じ思いを抱いていましたので、その気持ちはよくわかります。「ちょっとの距離だから原付スクーターでも大丈夫」と、私自身も軽く考えていたところがありました。
しかし、私たちが思っている以上に、高齢者にとっての新しい挑戦は「体力」だけでなく、「心理的な壁」も伴うのだと実感しました。実際に一緒に練習する中で、父が感じた不安や、スクーターの難しさを目の当たりにして、「安全で無理のない移動手段」を選ぶことの重要性を強く感じました。
次回の第二話では、そんな父が次に挑戦した「三輪バイク」と、その中で直面した新たな壁についてお話しします。同じように高齢者の移動手段について悩んでいる方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
それでは、第二話もぜひご覧ください。
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